(買出しから帰ってきた)

（庭の草花に水をやり、部屋を片付け、夕飯の準備をしている)

　
　
7月、1日。近頃、別の居場所を持ったらしく滅多に部屋に帰らない隣の住人…保護者の親戚の暁虎、を夕餉に招待する。滅多にこちらから呼ぶことは無いが、今日は特別だった。
「姉ちゃんってさ。去年にこっち来てから、まだいっぺんも香港帰ってねェんだってな。こないだ帰ったとき、うちに兄ちゃんが遊びに来ててよー。ごちてたぜ」
出された料理を綺麗に平らげたあと、茉莉花茶を啜りながら、暁虎が唐突に言う。
「あら、遊びに…春節でもないのに珍しいこと。ちゃんと仕事してるのかしらね、あのバカ」
以前、保護者から電話で暁虎が隣に越してくる旨を告げられた際に、一度くらいは帰るようにと言われた。その時は帰ろうと思ったのだが、結局また帰らなかった。目の前に迫った夏休みも、出来れば芳しくなかった成績を取り戻すために使いたいところだ。
言及されると都合の良い話題ではないので、敢えて触れずに話をする。
「…姉ちゃんさ。あっちに居る時から、離れで一人暮らしみたいなモンだったって聞いてるけど…寂しくねェの？帰らないのって…。俺、割りと寂しいんだよなー。しょっちゅう帰るし電話してる。」
話題は微妙に転換したようだが、何となく今の気分を当てられた。ような気がした。
「寂しくないわけじゃないわ。私は確かに一人で居る時間が長かったけれど－あの場所には廻りに常に人が居て、騒がしかったから…たまに、ね。酷く人恋しく感じるわ。時々、アンタの気に障る声でも聞きたくなったりするのよ」
「…自分で言っといてなんだが…意外ー…。姉ちゃんもやっぱ寂しいんだッ。俺は作ンなくても飯が食えて幸せだけどよー、へえ、成る程。それで招待してくれてたンだ」
「今日は人恋しいからじゃないけれどね。あちらを思いたい日なの」
一度言葉を切って席を立ち、窓際から空を見る。明日も曇るのだろうか…はっきりしない夜空。でもこの空は、香港にも続いている。同じ空を、彼の地の同朋達は見ているだろうか。
「あ。そっか…7月1日」
「返還日、でしょ。今年は返還10年目だから、花火も派手かしらね」
何となく、育った地を思って、あの場所の話をしたくなった。
思うだけでなく、帰れば良いのかも知れない。
けれど－…幾度も、何かの際に帰ろうと思うのだが。重い腰が上がらない、とはまさにこのことだろう。だからこうして時々、一人で、だったり暁虎を招いて二人で、だったり。
第2の故郷を思う。





返還10周年らしいので何かしたほうがいいのかなーとか
目的がはっきりせずに書いたので出来が宜しくないので迷いましたが一応あげてみたり。

朝朔さん的には多分、明日のことのほうがそわそわしていそうです